食べやすいのは、ご飯でした。噛むと粘りが出るから…
舌亜全摘出手術とリンパ節の郭清手術で3か月半入院。退院直後は、もっぱら流動食でした。家内は各種のフードプロセッサーやミキサーなどを購入し、とても大変だったようです。しかし流動食というのは、まずいのです。
あるとき、赤ん坊用のビスケットを食べたら、固形でも食べられたのです。それをキッカケに、固形のまま食べることに挑戦しました。実は、固形食の方がおいしいのです。
元々舌がないので、味覚は無いようなものですが、ある程度は分かります。ただ、味をすぐに感じることが出来なくて、飲み込んだ後で味覚を感じます。その後分かったことですが、実は匂いも味覚に関係することが分かりました。ですから、お刺身のトロを食べても、こんにゃくと同じで、味がしません。しかし温かい天ぷらは味がします。油の香りが味を思い起こさせるようです。
一番食べやすいのは、ご飯でした。噛むと粘りが出るからです。それで飲み込み易くなります。
しかし、肉などは中々粘りが出ないので、苦労します。
骨のある魚も食べられません。どんなに小骨を取り除いたつもりでも、必ず残っています。困ったことに、舌がないと小骨があっても、口の中ではその感触がありません。ノドに刺さりそうになったことが何度もあり、もう食べるのを止めました。
以前は、ソバやうどんが食べられませんでした。下を向いて口を開けると、口の中の食べ物が下に流れ出てしまうからです。現在は、何とか食べられるようになりました。
そしてどうにもならないのが、生野菜です。センイは熔けてくれないからです。ですから、野菜は煮野菜中心でしたが、その後家内が生野菜を機械的に搾る特殊な装置を買って来ました。それで我が家特製の青汁の野菜ジュースを造って、毎日飲んでいます。
舌がなくて困ることの一つが、食べ物を熱いうちに食べられないことです。本当は、香りがあるうちに食べたいのですが、口の中で食べ物をこね回すことが出来ないため、熱いものを口の中に入れられません。
また初め温かくても、2時間も掛けて食べていると、みな冷たくなってしまいます。さらに2時間も3時間も口を動かしていると、舌根やその周囲の筋肉が非常に疲れます。
今は出来るだけ食事時間を短縮するために、ご飯は汁物をかけて、スルスルと食べています。退院直後に比べると、現在はかなり味を感じるようになって来たし、食事も楽になって来ました。でも、私にとっては毎回の食事は苦痛なだけで、身体のためにやむなく食べているだけです。
栄養のバランスは、ビタミン剤や栄養剤で補っています。
私は皆さんに、流動食から固形食に早く切り替えることをお勧めします。理由は、ノド周辺や舌を動かす筋肉の強化になるからです。その事が言葉のリハビリにも役立つのです。たとえば私は「マ・ミ・ム・メ・モ」をどうしてもうまく発音出来ませんでした。これらは、唇を閉じて開くことで言葉が作られます。しかし、手術で下唇を切断したために、その周りの筋肉が硬くなっていました。それで、うまく発音出来なかったのです。
それで言語聴覚士のA先生から口の周りの筋肉(口輪筋)を鍛える道具をもらい、2ヶ月ほど強化訓練をしました。そうしたら「マ・ミ・ム・メ・モ」がしゃべりやすくなりました。私の実感としては、固形物を食べることが舌の周囲の筋肉の訓練になったと感じています。(「口腔咽頭がん患者会」提供)