前立腺ガン闘病記
薬学博士(執筆日2022年11月、81歳)
第一段階 初めてのPSA測定
〇〇市は年齢が50,55,60,65,70,75のような5歳刻みで前立腺がんの検査を無料で実施している。そこで私も55歳時に受けてみた。その結果、PSA*は4.8で、専門医の診察を受けるように言われた。専門医のいる医療センターでのPSAは5.6で、様子を見るため3ケ月後に来るようにいわれた。3ケ月後のPSAの値はわずかに4を超える程度であり、この時は治療もなしに終わった。
PSAの値が変動しているので、これの分析法について調べてみた。分析するためのキットが日本では5社位メーカーがあり、各社とも得られる値はまちまちであった。そこで、各社はアメリカ製のキットを使用したと仮定し、それに合うよう値を補正することにしたようだ。そのため、この検査は同じ病院で検査しないと意味は薄れる。4.0ng/ml 設定の根拠は、アメリカ人120人(前立腺患者を含む)、日本人少数というもので、4.0ng/mlの設定根拠は乏しい。現時点(2022 年7月)で主治医に聞いてみると、当初(日本でPSA検査を開始したころ)は4.0ng/mlの根拠は薄弱であったが、実情には合っているのでそのままになったらしい。
prostate specific antigen
PSA4.0ng/ml以上はがんの疑いありとされている。

他のがん検診でも使われる数値か?
第二段階 その後の各年齢でのPSA値
- 65歳 PSA 4.11
- 70歳 PSA 12.4
- 75歳 PSA 30.6
70歳でのPSA12.4は高いと感じインターネットで調べてみた。都道府県のがんセンターでは17前後を危険と考え、一方旧帝大なかでも京都大学医学部はPSAの値が20後半で危ないと感じていることが分かり少しホットした。そのため、この後PSAの値が高いことを忘れてしまい、75歳の健康診断を待つことになった。
75歳の健康診断関連の諸検査を受けた。ここでのPSAは30.6であった。すぐに紹介状を渡され、再び医療センターに行った(2016.3.14)。再検査の結果、PSAは34.6であった。約2週間後、1泊の入院で生検(biopsy)を受けた。10ケ所採取し*1そのうち2ケ所にがん細胞が見つかった。グリーソンスコア*2が7(3+4)、MRIやCTの主治医診断では、がんの状態がT3AN0M0*3であった。なお私の診断ではT2AN0M0で先生より1段階低い。この理由はMRI画像の読み方の違いで、主治医はがん細胞が前立腺から飛び出ていると判断したが、私は飛び出ていないと判断した。別の考えとしては、PSAの値が34と20を大きく越えていたことから単にT3としたことが考えられる。

70歳の検診でPSA12.4でしたが、精密検査はしなかったんですね。
私は前立腺から10ケ所抜かれ、抜く数は多い方が正確性は増すが、厚生労働省のガイドラインでは約10ケ所以上採取となっている。医療センターでは32本の抜き取りがチャンピオン採取数らしい。なお、この生検は痛みを感じる。ガイドライン通りに実施したとしても20~30%でがんの見落としが出るらしい。
生検で採取した組織像を光学顕微鏡で見てがん細胞を点数化する。視野の中で最も多い組織像と2番目に多い組織像について正常組織に近い場合を1,悪性度の高いがんを5として、その点数の合計で判断する。私の場合、3+4の7であった(おなじ7でも4+3とは大分異なる)。なお、がん細胞は正常細胞に比べ変形の度合が大きく、この業界では顔つきが悪いと表現する。
TNM分類法は原発性がんすべてのがんに適用される。
T(Tumor):原発がんの広がりを示し、0,1,2,3,4段階およびA,B,C期の表現もある。
N(Node) : リンパ節転移ありなしの程度を示し、0,1,2,3,4段階ある。
M(Metastasis): 原発巣から離れた臓器に転移があるかないかの2種類ある。
第三段階 治療開始
がん細胞の顔つきに(グリーソンスコア)4があるということは、がんとして重い方に属する(主治医談)。
2016.5.30(75歳) 治療開始
がんの治療には大きく分けて4つある。
- 1番目は手術で前立腺と性嚢を取り除く方法。
- 2番目は内分泌療法。前立腺は男性ホルモン支配下にあるので、男性ホルモンが働かないようにする錠剤または注射する方法を内分泌療法という。
- 3番目は放射線療法で、普通のX線照射と重粒子線照射がある。なお、重粒子線照射は2018年4月より高額医療の扱いから保険適用となりった。そのため前立腺がんでは314万から保険適用の1~3割負担となった。
- 4番目は何もしないという待機療法だ。これはがんが非常に軽度の場合に適用されるようだ。
私は熟慮の上、2番目の内分泌療法を採ることとした。これまでのQOLを大事にするためだったが、主治医からは金はかかると言われた。治療開始以降3ケ月毎の検診が始まりまった。なお、この療法はがんを抑えるだけで全治はしない治療法だ。

手術や放射線療法を選ばなかったのはなぜ?
薬の作用/副作用の専門知識があるので、内分泌療法を選んだのですか?
内分泌療法のクスリ
PSAを低下させる
男性ホルモンを止めて、PSAを低下させる
PSAの経時的変化
PSAの測定日 | PSA値 | |
---|---|---|
2016年 (75歳) | ||
3.14 | 34.6 | |
5.3 | ビカルタミド服用開始(80mg錠) | |
6.27 | 8.4 | LH-RH注射(3ケ月毎の注射) |
8.1 | 1.79 | |
12.19 | 0.11 | LH-RH注射 |
2017年 (76歳) | ||
1.3 | 0.07 | |
3.13 | 0.05 | LH-RH注射(とどめを刺すの意味) |
5.1 | 0.02 | ビカルタミド服用中止 |
6.26 | 0.03 | |
8.26 | 0.08 | 男性ホルモンを遮断すると、 筋力低下と赤血球減少が起きる |
10.3 | 0.95 | |
2018年 (77歳) | ||
3.19 | 5.63 | |
6.18 | 9.43 | LH-RH注射再開 |
9.1 | 2.96 | |
10.12 | 3.34 |
主治医より勧められ〇〇クリニックに行った。ここはIMRT(強度変調放射線治療)を実施するのが目玉。診断の結果、私には放射線治療は不向きで尿の状態が一層悪くなるとの見解であった。 10月22日 〇〇クリニックでの結果を主治医に報告。医療センターでの治療を継続することになった。妻が初めて同席。
PSAの測定日 | PSA値 | |
---|---|---|
2019年 (78歳) | ||
12.3 | 2.67 | |
3.4 | 8.94 | |
6.3 | 13.09 | ビカルタミド服用 |
7.2 | 7.46 | |
8.27 | 2.57 | ビカルタミド服用を1/4錠とする。 副作用軽減のため。主治医には話さず。 |
10.29 | 2.63 | |
2020年 (79歳) | ||
1.28 | 3.76 | |
4.28 | 3.66 | |
8.4 | 4.21 | ビカルタミド服用を半錠とする |
10.27 | 5.72 | |
2021年 (80歳) | ||
1.26 | 6.41 | |
4.27 | 7.6 | |
7.27 | 8.12 | |
10.26 | 8.83 | ビカルタミド投薬なし |
2022年 (81歳) | ||
1.25 | 15.22 | ビカルタミド投薬及びLH-RH注射なし。 |
2.22 | 12.8 | LH-RH腹腔注射 |
3.22 | 7.63 | |
5.17 | 6.88 | LH-RH注射 |
7.12 | 6.87 | |
9.6 | 5.57 | LH-RH注射 |
11.1 | 8.11 | 注射せず |

薬の副作用で辛かったのは?

ここまでの考察
ビカルタミド服用とLH-RH注射でPSAの値は劇的に低下する。その分身体への副作用は予想以上にひどい。LH-RH注射の際に副作用一覧表を渡された。A-4紙に一杯副作用が記載されていた。骨折するまでテニスは継続していたが、仲間に前立腺がん患者がいた。彼は東京のがんセンターで治療していたが、彼に現れた副作用に関しては大分参考になった。彼はレッスン中、疲労のため何度も座りこんでいた。私とは副作用の出方が違うようであった。
ビカルタミドはラセミ体であり、フルオロフェニルスルフォニル基とトリフルオロメチルフェニル基を持つプロパンアミドである。80㎎錠であるが、ラセミ体のため半分の40mgは効力がなく無駄なものである。この点を主治医に指摘したが、ラセミ体の意味を解せないようで、効力があれば良いという考えらしかった。
LH-RH(Leuteinizing Hormone-Releasing Hormone, 黄体形成ホルモン)アゴニスト。この物質の物性については扱ったことがあり少し親近感があった。9ケのアミノ酸から成るオリゴヌクレオチドであるが、9vケの内1ケのみD体で他の8ケはL体である。化学名がややこしい。
骨の痛みは存在したが、骨シンチグラフィーなどの検査では正常らしいデータであった。実際は、左手中指使用の銀行生体認証カード3枚は、指が曲がっていたため使用出来なかった。夜中に骨の痛みのため目を覚まし起きたこともある。テニス中転んで骨折したが若い時なら単なる転倒で済んだであろうが、その時は左手橈骨粉砕骨折(1ケ月入院)となってしまった。
2022.11.1 PSAの値が8.11であったことは再びがん細胞が活発化してきたことを意味する。さて、今後どうするか、教科書の説明では、
- 2022.12.27日検査予定の結果を注視する。
- 抗アンドロゲン薬のビカルタミド(一般名カソデックス)からオダイトン又はエンザルタミドに代えて再び服用を開始する。
- 抗がん剤による化学療法をやってみる、ドセタキセルが一般的。LH-RHは併用。
- 手術は当初から存在したが、術後10年くらいから後遺症が出てくるなどの知識が 邪魔し踏み切れなかったものであるが、再考の余地はある。
自分はがんでは死なない と決めている。多分心不全関係で異世界に行くのであろう。年とともにがん細胞の分裂・増殖は遅くなるのでPSAの値はゆっくりした変化になると思われる。
以上