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星野史雄のパラメディカWeb書店

癌を追って ある貴重な闘病体験

  • 著者
  • :石弘光
  • 出版社
  • :中公新書ラクレ
  • 発行年
  • : 2010年

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星野店主の書評

1937年生まれの一橋大学学長が、癌研有明病院で前立腺の全摘手術を受ける。

星野店主の書評

 皆さん、こんにちは。店員のあきひです。
前回に引き続いて、男性特有の癌、前立腺癌の闘病記を紹介します。 著者は、経済学者の石弘光さんです。この本からは「備えあれば憂い無し」とはいかないまでも「備えあれば憂い少なし」を学べます。 学者としての石さんが、自分の癌について探求心を持って観察し続け、「もしかしたらの日」に備えて周到に準備して過ごされた姿勢から感じたことです。

 実は、石さんのお父様も前立腺癌でした。 1960年代のことです。 今と違って本人への告知も無く、検査や治療法もまだ進んでいない時代でしたから、「前立腺肥大です」と言われて手術した時は、すでに骨盤に転移した末期の癌でした。お父様は自分が癌と知らぬまま骨転移からくる痛みを神経痛と思い、湿布を貼ったりお灸をしたこともあったそうです。最終的にホルモン療法や放射線治療を受けましたが、最後は体中、脳にまで癌は転移。この時、石さんは手遅れの前立腺癌の末期症状はつくづく悲惨なものだと痛感しました。

 家系・遺伝的に将来自分も前立腺癌になるかもしれないと感じた石さんは、癌を意識して若い頃から定期的に健康診断を受診。また、前立腺癌に罹りやすくなる50代になると、癌患者の闘病記や癌関連の書物から知識を養いました。

 そして、66歳の時の検査で ”前立腺癌の疑い有”と診断され経過観察となります。一般的に、前立腺癌の有無は腫瘍マーカーのPSA検査(正常域内4以下)で判明するそうですが、石さんの場合は1.0周辺の値でした。正常域内でもエコーや尿検査、直腸診など総合的に見ていくと前立腺癌が存在するケースが2~3割あるとのこと。結果として石さんもこのケースだったようです。

 数年の経過観察の後、石さん72歳の時に、ついにその日がやってきます。 「限局性、転移なし、ごく初期のステージの癌」と診断が下りました。 この時石さんは、10数年癌を追いかけてきて、初期で発見できたことは実にラッキーだと感じたそうです。

 そして、石さんは迷いなく根治を目指し全摘手術を選択します。 告知のずっと前から癌に向き合ってきただけあって、何故この治療を選択するのか、何故これは選択しないのか、その理由をご自身の中でクリアにして治療に臨まれます。 お父様が闘病された時代に比べれば、現代医学の進歩により前立腺癌の早期発見、早期治療が叶った石さん。 それだけでなく「もしかしたらの日」に備えて、癌に向き合い続けた努力も見逃せないと思える一冊です。

 最後に石さんの次のメッセージもお伝えしておきたいと思います。
「中高年夫婦の奥さんには、夫が罹患する可能性も十分あるので一読してもらいたいと念じている。」