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死ぬ気まんまん

  • 著者
  • :佐野洋子
  • 出版社
  • :光文社
  • 発行年
  • :2013年

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星野店主の書評

この本は、絵本『100万回生きたねこ ※』の作者が綴ったエッセイである。 68歳で乳がんになった佐野さんは、2年後に左大腿骨に転移して余命2年の宣告を受ける。 ところが、『死ぬ気まんまん』というタイトルをつけた佐野さんならでは、やらかすことが私たちの想像を超えている。 宣告を受けた日、病院帰りに初めて外車"ジャガー"を買ってしまう。そして、自分で運転して病院に通えば、気兼ねなくタバコが吸えるし、タクシー代も節約できると喜ぶ。 ガン患者が書いたものでありながら、ガン患者の日常のつれづれが重苦しくならずに読める。家族のこと、ちょっと変わった友人のこと、主治医とのやり取り、ミーハーな自分のことなどが佐野さん独自の視点で語られてゆく。 余命2年の宣告を受けたのでお金は要らなくなると思い、治療費、終末介護代、墓やお寺を決めた後は、ジャンジャンお金を使った。ところが、2年過ぎても生きているので、主治医に「お金なくなちゃった」と言ったら、「困ったねぇ」と言われ、先生がかわいそうになったので「元気ですから仕事します」と言ってしまうところなどつい笑ってしまう。 ジュリーの話、『踊る大捜査線』の柳葉敏郎の話、寝転がって『相棒』を見ていることの幸せの話等々。 あと2年の命と伝え優しくしてくれていた友人達が、まだ死なないと知ったらあれ?と思う行動に出てしまったり。笑っちゃいけないけど、可笑しい。 佐野さんだからできること、言えることも多いとは思うが楽しませてもらえる。 痛いのは嫌だけど死ぬのは怖くないという佐野さんの原点は、幼少期に身近で起きた人の死にあるのだろう。1932年に北京で生まれ、9歳の時に日本に引き揚げた。7人兄弟妹だったが、10歳迄に3人の兄弟を亡くしている。また、戦中戦後の混乱期も経験。命ある者「生は必ず死で収束する」という動かせない事実を受け容れ、自分の死生観を形作ってこられたのかもしれない。 また、この時70歳という年齢も関係している。エッセイの後半では死に伴う喪失感や悲しみも十分に知った人であることがわかる。 生活の全てがガンに取り込まれたりせぬよう、時にはこんな本も良いのではないかと思う。 本書にはこのエッセイの他に主治医との対談、「知らなかったと」いうエッセイ、関川夏央氏の佐野さんとの思い出話が収められている。 ※『100万回生きたねこ』は出版以来、200万部以上発行され多くのひとに愛されている。