がん語らいの交差点 わたしのがんカフェ

星野史雄のパラメディカWeb書店

がんで
逝くひと、
送るひと

  • 著者
  • :池田朝子
  • 出版社
  • :三省堂
  • 発行年
  • :2011年

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星野店主の書評

著者は1961年生まれ。2006年のある日、近所に住む77歳の父がミキサーで砕いた食べ物しか食べられなくなったと聞き、驚く。内視鏡検査の結果、食道がんと判明する。20代からファッション誌の編集者だった著者は、医療に関しては全く白紙の状態から情報を集め、600日に及ぶ父の闘病を支え、看取る。更に、父の死後、国際医療福祉大学で医療福祉ジャーナリズムを学び、その上でこの本を上梓する。編集者魂を感じる本。

山田店員からメッセージ

 皆さんこんにちは。店員の山田です。

 今回もがんの父親を見送った女性の本を紹介します。著者の池田朝子さんはフリーライター。大きな病気をしたことのなかった77歳の父親が突然にがん患者となりました。池田さんはその闘病を支え、そして、家族の看取りを経験することになります。

 本書はそんな池田さんが書いた本。本書は、ほかの闘病記とはいくつか際立った違いがあります。ひとつは、具体的な状況、本人や家族の心情などの記録が必要最低限に抑えられていること。もう一つは、病気の発覚、治療、ターミナルケア、看取りといった一連の流れの中で、タイトルにもあるとおりに、看取りを大きなテーマとしていることです。

 当店でこれまでに紹介した闘病記の中にも、記録的な記述が少なくて、これからがん闘病をする人、それを支える人のための解説本のような本が何冊かありました。本書もそんな一冊ということになります。池田さんはお父さんの場合どうだったかを簡潔に説明したすえで、その反省点を挙げ、そしてこれから同じような体験をする人へのアドバイスを展開します。

 この書き方は非常に説得力があります。また、自分の経験の中で悔やまれる点を、後悔ではなく反省として、次の人にために役立てようとする前向きな姿勢は素晴らしいと思います。

 もう一つの特徴である、看取りを大きなテーマとしている点について。これもほかに同様のコンセプトの本はあるのですが、本書はより実際的であるのが大きな特徴です。看取りというと、精神論や観念的な話になりがちですが、本書は看護における家族の負担、ホームヘルパーや訪問看護師の活用など、自宅で看取るための実際的な内容が多くなっています。自宅での看取りは今や課題や目標ではなく、現実になりつつあります。こうした実際的な内容こそ、今望まれているものといえるでしょう。

 この本でもう一つ、触れておきたいのは、患者をサポートする者の心得として、会話、あるいは傾聴について触れていることです。私はがんのピアサポーターという、傾聴ボランティアのようなことをしていますから、当然、こういったことには興味があります。池田さんは本書の中で、「判断も解釈も批評も無く聞くこと」が大切であると書いていますが、これは患者の家族だけでなく、がんのピアサポーターにとっても、肝に銘じるべき至言のように思われます。