がん語らいの交差点 わたしのがんカフェ

星野史雄のパラメディカWeb書店

夫ががんになったら
夫婦で立ち向かうためには

  • 著者
  • :土倉 玲子
  • 出版社
  • :北海道新聞社
  • 発行年
  • :2012年

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星野店主の書評

前立腺がんの闘病記は35冊ほどあるが、手術や放射線治療によって比較的生存率は高いようだ。それでも進行が早く、骨転移で打つ手が限られるケースもある。この本は、前立腺がんの闘病記には珍しく、妻の立場から夫の闘病と、2008年に56歳で亡くなるまでを回想する。夫は乾物を扱う会社の社長、妻は大学で心理学を教えていた。

山田店員からメッセージ

 皆さんこんにちは。店員の山田です。 今回紹介するのは、前立腺がんになった夫を支えた妻、土倉玲子さんの著書「夫ががんになったら」です。家族の誰かががんになると、本人だけでなく家族も「第二の患者」としてさまざまな苦痛や不安にさらされます。その家族の中でも夫婦の関係は、もっとも頼りにする、あるいはされる関係であり、同時に難しい関係といえるかもしれません。

 本書の最大の特徴は、著者であり、夫を支えた妻である土倉さんが、心理学の専門家であることです。しかも、夫ががんになるずっと前から、パートナーシップおよび夫婦関係研究を専門としていたというから驚きです。

 当然ながら、本書は闘病生活を記録したドキュメント形式の闘病記の枠には収まりません。おおまかに言って、前半が一般的な闘病記としての内容、後半は闘病を支えた妻として、専門分野の知識を活かしながらの解説がメインとなります。

 当店ではこれまでにも、がんになった人や、その家族のための解説書といえるような闘病記を何冊も紹介してきました。そのほとんどは「治療法に納得できなければセカンドオピニオンをとるとよい」というような実務的な内容です。しかし、本書は他の本があまり目を向けてこなかった精神面をメインにしています。これは大変に良いことで、がん治療と精神的な問題は切り離すことができません。

 特に、夫を支える妻は精神面の問題を抱えやすい立場といえるでしょう。ほかの家族関係が気楽だというわけではありませんが、夫婦関係は血縁と違って究極的には他人の関係。平常時でもその関係を維持し、実りあるものとするためには多大な努力が必要なものです。ましてがん闘病となれば、推して知るべしです。

 土倉さんは、闘病を支えた妻として、よかったことも悪かったことも包み隠さず書き綴り、心理学の専門家として、その体験を分析していきます。本書が想定する読者「夫または妻を何らかの事情で失ってしまうかもしれない人、失ってしまった人、そして、現在は特に切羽詰まった状況にはないけれど、ふと『パートナーを失ったら自分はどうなってしまうのだろう』という不安を感じている人」に、これ以上頼りになる著者はいないといえるでしょう。