がん語らいの交差点 わたしのがんカフェ

星野史雄のパラメディカWeb書店

おかあさんががんになっちゃった

  • 著者
  • :藤原 すず
  • 出版社
  • :メディアファクトリー
  • 発行年
  • :2008年

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星野店主の書評

絵柄があまりにもシンプルだが、フラワーデザイナーを目指す著者が、娘の立場から母の闘病をコミック形式で描いた本。がんに見舞われた家族の様子がよく伝わってくる。本文中に母親のがんの部位は書いてないが、雑誌で見た著者と鎌田實先生との対談に“膵臓がん”とあった。

山田店員からメッセージ

 まんがの闘病記も、もう3冊目の紹介になりました。皆さんこんにちは、店員の山田正昭です。

 そして、今回はまんがの闘病記であり、同時に患者本人ではなく、家族が書いた闘病記でもあります。家族が書いた、というのは、患者のかわりに代筆したということではなく、患者の家族の目線で自分の気持を書き綴っているということです。

 僕はがんのピア・サポーターをしていますが、その勉強の中で、家族は第2の患者だと習いました。それほど家族の負担やダメージは大きいということです。僕はがんになった本人ですが、妻のことを思うと、第2の患者どころか、患者本人よりも辛いんじゃないかと思います。例えば手術。僕は6時間もかかる手術を受けましたが、寝たと思った直後に起きてしまった感覚しかありません。しかし、妻は6時間も待合室でじっと待っていたわけで、逆の立場だったら自分には耐えられないんじゃないかとさえ思います。

 話を戻しましょう。このまんがの作者、藤原すずさんは、東京で自分の夢を実現するために頑張っていたのですが、唐突に、母親ががんになったと知らせを受けます。母親を支えるため、東京での一人暮らしをやめて実家に戻ったすずさん。しかし、母親のがんはかなり深刻なものでした。

 この闘病記には、治療のことは何も出てきません。がんについての説明もありません。母親がなにがんなのかさえ、書いてありません。しかし、それはわけがあって隠しているわけではないようです。おそらく、重要なことではないからいちいち書かなかったということでしょう。

 では、すずさんが重要だと感じ、まんがに書き残したことは何だったのか。それは父親からのがんの知らせの電話を冗談だと思って信じなかったことだったり、母親に梅干の漬け方を教わったことだったり、あるいは、母親ががんであることにさえ慣れてしまって気が緩んでる自分を発見して落ち込んだり、そんなことです。

 すずさんはプロの漫画家ではなく、絵はごくシンプルなものです。背景もほとんど描かれておらず、セリフも少なく、ほかのまんが闘病記にあるような文章の解説ページもありません。しかし、がん患者の家族にとっては、金言の宝庫だと思います。また、患者本人が亡くなる結末でありながら、これほど読後感が爽やかな闘病記もほかにないでしょう。