がん語らいの交差点 わたしのがんカフェ

星野史雄のパラメディカWeb書店

乳がんだって生きていくあたし

  • 著者
  • :クリバリ ユミコ
  • 出版社
  • :いのちのことば社 フォレストブックス
  • 発行年
  • :2009年

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星野店主の書評

著者は1967年生まれ、武蔵野美術大学卒のイラストレーター。ご本人の説明によると「バブル時代に美大生だった私は、ブラックカルチャーが大好きで、新宿のレゲエクラブでマリ人のモイスと結婚、出産。子育てに追われていた」が、32歳で乳がんに。ちょっと危なっかしいが、ゴスペルが大好きなクリスチャンの闘病記。

山田店員からメッセージ

 皆さんこんにちは。 今回は前回に引き続き、乳がん体験者の描いたマンガによる闘病記です。若い女性にも多い乳がんは本当に難敵。その治療は手術、放射線、抗癌剤、さらにホルモン療法などフルコースになってしまうことも多く、長期的な治療に取り組まなければなりません。

 イラストレーターであるクリバリさんは、32歳の若さで乳がんに罹患し、7年後には再発も経験します。国際結婚で生まれた二人のお子さんの子育てで、何かと忙しい日々を過ごしていた中での罹患。治療しながら仕事と子育てを続け、離婚も経験するなど悪戦苦闘の日々の辛さや悩み、迷い、葛藤もそのままマンガにしています。

 この闘病記で参考になるのは、まさにその悩みや迷い、葛藤でしょう。患者なら誰もが経験する、理屈では割り切れない思いが臨場感を持って語られます。治療にあたって手術をするのか、しないのか。手術をするなら全摘なのか、温存なのか。僕はがんのピアサポーターとしていろいろな患者の方の話をお聞きしますが、やはり治療法の選択に悩む人は非常に多いです。女性なら乳がん、男性なら前立腺がんの治療で、多くの人がこの選択を迫られるのです。

 治療法を選択しなければならないということは、選択肢があるということですから、本来はいいことです。しかし、患者の立場ではこれがまさに悩みのタネ。同じ悩みを抱える人には、本書の内容には大いに共感できるでしょう。

 さらに、本書は心のよりどころ、より具体的に言うと宗教の話題も数多く取り上げられています。特に後半はその色が濃くなっており、無宗教だったクリバリさんは次第にキリスト教の教えに救われるようになっていきます。ですから、本書をキリスト教の入門書として読むことも可能かもしれません。でも僕は、どんな宗教かということを超えて、もっと普遍的なことが本書には描かれていると思います。がん患者の心の持ちよう、スピリチュアルな不安、迷いにどう向き合っていくか、その解決の糸口として、読むことができると思うのです。