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星野史雄のパラメディカWeb書店

愛しているよカズ
小児ガンと闘った母親と息子の愛の記録

  • 著者
  • :光武 綾
  • 出版社
  • :長崎文献社
  • 発行年
  • :2008年

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星野店主の書評

光武上総(カズ)くんは2歳のとき、側頭部に横紋筋肉腫(RMS)が見つかる。腫瘍は摘出されるが、幼稚園に入園後に再発、小学校入学後も再々発。やがて治療の副作用で骨髄異形成症候群(MDS)を発症、医師から「治療をやめるしかない」と告げられる。カズくんが心停止を迎えると、母は椅子に座り、腕の中でカズくんを看取る……。本書には、長崎文化放送が撮影した入院中のカズくんの様子を記録したDVDが付録としてついている。

山田店員からメッセージ

 泣くための物語ではないはずです。 皆さんこんにちは、店員の山田です。今回紹介する「愛しているよカズ」を読んで涙を流さない人はいないでしょう。しかし、これは決して人を泣かせるために書かれた本ではない。そう思います。

 光武上総(みつたけかずさ)くんはわずか1歳10ヶ月で横紋筋肉腫という小児がんに侵され、治療と再発を繰り返します。この本は、上総くんの母親である光武綾(みつたけりょう)さんがその闘病の記録を綴ったものです。

 最初の数ページを読んだ時、これは読めないと思いました。この世界でなにが辛いといって、子どもが亡くなることほど辛いことはありません。その物語を読むことはあまりに悲しく、自分には読めないと思ったのです。しかし、中盤からページをめくる手が止まらなくなり、あっという間に読みきってしまいました。

 なぜそんなに引きこまれたかというと、上総くんが万人を魅了する魅力のある子どもであるということが、まずあります。しかし、それ以上に感じたのは、母親であり、書き手である光武綾さんの真摯さ。いたずらに悲しみや苦しみを強調すること無く、ただひたすら事実を伝えようとする文章です。

 文章そのものは硬く書いてあるわけではありません。逆に女性らしい柔らかさに満ちた、分かりやすい文章です。しかし同時に、母親としての誇りを持って、堂々と書かれた文章だと思います。だから、読者は自然と姿勢を正し、その言葉をしっかり受け止めたいという気持ちで読みたくなるのです。

 非常に誤解を招きそうなので書くかどうか迷ったのですが、この本を読み終わったあと、それほど悲しみはありませんでした。読んでいる途中は非常に悲しくて何度も泣いたのですが、読後、涙はありませんでした。この気持は何でしょう。

 僕たちは小児がんについてもっと知らなければならないと思ったし、なにかすべきことがあるのではないかと思いました。そう、「泣いてる場合じゃない」という気持ち。昨今、テレビや雑誌やネットには手頃な「泣くための物語」が散乱していますが、この本はそういったものとは根本的に違います。

 この本は1,680円とやや高めですが、NCC長崎文化放送が制作したテレビ番組「愛しているよ、カズ 小児がん・命の記録」のDVDが付属しています。がん体験者はもちろん、すべての母親、父親に読んでほしい本です。