がん語らいの交差点 わたしのがんカフェ

星野史雄のパラメディカWeb書店

子宮癌のおかげです

  • 著者
  • :渥美雅子
  • 出版社
  • :工作舎

本の詳細はこちら

星野店主の書評

著者は1940年生まれ、79年に中村玉緒主演のTVドラマ「弁護士かあさん」のモデルとなる。DVなどの問題を扱い、“人生につまずいた人の応援団長”として活躍する女弁護士が03年に子宮頚がんと診断され、広汎子宮全摘手術を受け、その57日間の入院生活を綴る。夫やイソ弁(勤務弁護士)と、事務所内で講談の勉強会を開き、ボランティアで老人施設などを慰問しているというだけあり、爆笑&赤面の闘病マニュアルとなっています。

山田店員からメッセージ

 「がんのおかげ」っていう気持ち、僕にもあります。皆さん、こんにちは。店員の山田です。今回ご紹介するのはこの本、渥美雅子さんの子宮頸がんの闘病記「子宮癌のおかげです」。

 がんのおかげ、というと、やはり大抵の人は変に思うものでしょうか。冒頭に書いたとおり、僕も「がんのおかげ」と思っていることがたくさんあります。がんのおかげで禁煙できたし運動もするようになって、総合的にはがんのおかげで健康になりました。僕の周りでも「がんのおかげ」という感覚を持っているがん体験者は多いように思います。

 さて、女性弁護士として活躍している渥美さんは、子宮頸がんに罹患します。しかし渥美さんはさすが弁護士、というのも変かもしれませんが、非常に冷静です。がんは今や日本人の死因の第1位。だからがんを「日常的な病気として受け入れ、日常的な治療を施し、日常生活に戻る」というスタンスで治療に望みます。

 ですから、この闘病記には壮絶な治療の辛さとか、激しい副作用とか、涙とか感動とか、そういう内容は殆どありません。そこにあるのは、明るく前向きで、なにより日常的な治療の様子。と、言いたいところなんですが、実のところ、渥美さんの治療体験は「日常的」というにはあまりに奇想天外、自由奔放。入院中に内緒でビールを飲んだりするのはちょっと自由すぎます。真似してはいけません。

 渥美さんは生来、型破りな方であったようで、だから治療体験もエキセントリックなものになったようです。これを読んでいると、「こんな人ほかにいないよ」と思う反面、「これこそが、すべての人が目指すべき理想的ながん治療体験ではないのか」という気もします。

 「人は『ガンです』と言われると、お先真っ暗になったような気分になる。その誤解を解くため」に、渥美さんはこの闘病記を書いたそうです。その目的は十分に果たされたといえるでしょう。ただ問題は、この本をがんになる前の人がたくさん読んでくれるかということ。例えば、この闘病記をテレビドラマにすれば沢山の人が見てくれて、がんに対する誤解も解けると思うのですが、テレビ局はどういうわけか、がん患者が最後に死ぬドラマしか作ってくれません。何とかならないものでしょうかね。