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運命を生きる

  • 著者
  • :浅野史郎
  • 出版社
  • :岩波ブックレット

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星野店主の書評

白血病には、骨髄性・リンパ性の区別があるが、もうひとつヒト細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-Ⅰ)というウイルスに感染して起こるものがある。この本には元宮城県知事の浅野史郎さんが2009年5月にATL急性型を発症し、骨髄移植を受け、2010年2月に退院するまでの経過が書かれている。

山田店員からメッセージ

 皆さんこんにちは。今回ご紹介するのは浅野史郎さんの闘病記「運命を生きる」です。私はこの闘病記を読むまで、浅野さんを存じ上げませんでした。でも、テレビでも大変に活躍なさっているそうなので、知っているという人も多いでしょう。

 白血病にはいろいろな種類があるのですが、その中でも特に難病であるATLに、浅野さんは罹患します。この病気がどれほど手強いかを十分に知っていながら、落ち込んだのは告知を受けてから30分ほど。すぐに戦う気持ちになったというから驚かされます。

 自分ががんになったら、前向きに戦うことなどとてもできないと思う人は多いでしょう。でも、がんと向き合い、克服していく力は誰にでもあります。がんの告知を受ければ、誰でも必ず落ち込みます。しかし、そこから立ち上がり、前向きになり、明るく生きていくことができるようになる。その力は誰でも持っているのです。

 ただし、普通は落ち込む期間が数週間から数ヶ月あます。そこを浅野さんは30分で済ませてしまったわけで、これはやっぱりすごいことです。なぜそんなことができるのか? それを説明するため、本書はがん闘病の話をいったん離れ、浅野さんのこれまでの人生を振り返っていきます。

 これが非常に面白い。またもページをめくる手が止まらなくなり(星野店長の選ぶ本は止まらなくなるものが多いです)、闘病記だということも忘れて熱中してしまいました。どう面白いかは本書を読んでいただくとして、浅野さんの言わんとすることはつまり「運命を運命として受け止める生き方をしてきたから、がんにもなっても前向きになれた」というものです。

 しかし、私には、浅野さんは自分で運命を掴み取る人生を送ってきたように見えました。闘病についても、がんを克服するという運命を自ら手を伸ばして勝ち取ったように思えます。ただ、それは意外と、そんなに難しいことではないのかもしれない。発想の転換というか、だれでもちょっと考え方を変えるだけで、浅野さんのようなしなやかな強さを発揮できるのかもしれない。読後、そんなことを考えました。