がん語らいの交差点 わたしのがんカフェ

星野史雄のパラメディカWeb書店

生きる者の記録 佐藤健

  • 著者
  • :佐藤健と取材班
  • 出版社
  • :毎日新聞社
  • 発行年
  • :2003年

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星野店主の書評

先週紹介した「がんと明け暮れ 記者が綴る10年の記録」の著者 村串記者自身が闘病記を書くきっかけになったという闘病記。佐藤氏は33歳で取材のために剃髪し、雲水になったこともある名物記者だが、定年直前の2001年に肝細胞がんと診断される。長年の飲酒で肝機能が低下しているために外科手術は出来ず「肝動脈塞栓術」による治療が始まるが、翌年には更に食道がんが発見され、放射線治療が加わる。

定年を延長した記者は、東大病院入院棟14階の「ターミナルケア病棟」から、自分の病状を読者に報告し続ける。この本が異色であるのは「がんに効く」として知られ、湯治客の7、8割が末期がん患者という秋田県の玉川温泉を訪ね、そのルポに多くのページを割いていることだろう。この本の表紙には、ゴザを抱え、岩盤浴に向かう佐藤記者の写真が使われている。各地のがん患者が集まり、「死」が食後の話題になる岩盤浴の地で、佐藤氏は宗教の原風景を見る。

山田店員からメッセージ

うーん、これは、かなり、厳しい・・・。すみません。皆さんこんにちは、店員の山田です。今回紹介する「生きる者の記録」、僕も今回はじめて読んでみたのですが、その厳しい内容に衝撃を受けました。

還暦を目前にして肝臓がんを患った筆者、佐藤健氏は新聞記者です。仏教から野球のイチロー選手、果てはゴリラの生態まで、様々な題材を追ってきた取材記者の最後として、佐藤さんは自分自身を題材とし、その闘病の記録を新聞に連載します。しかし、病状はあまりにも過酷でした。肝臓がんからやや遅れて食道がんも発見され(転移ではなく別々のがん)、しかも遠隔転移もしていたのです。

読み始めて気がついたのですが、僕は25年ほど前に佐藤さんの講演を聞いたことがあります。仏教を取材するため自ら出家し、僧侶となり、雲水となった顛末を、面白おかしく話してくださいました。およそ新聞記者らしくない、大らかで自然体の雰囲気。こんな記者もいるのかと非常に感銘を受けたことを覚えています。その佐藤さんが、こんな闘病記を残していたとは。今まで知らなかった自分が情けない思いです。

話を戻しましょう。佐藤さんは自分の病状や治療の様子を連載記事にしますが、やがて右手が動かなくなり、同僚の記者に口述筆記を頼みます。さらに、自分が口述さえ出来なくなった時の代筆も。そのため、ほかの闘病記にはまずありえない、本人が意識不明となったあとの描写、さらに臨終の描写までも、本書には含まれています。これは読んでいて辛い。厳しい。でも読んでしまいました。

本書には連載時に読者から寄せられた手紙や佐藤さんの写真も数多く収録されており、連載時の反響の大きさや、佐藤さんの人となりを感じることができます。また、前半に湯治で有名な玉川温泉についての詳細な記述、体験記があります。僕も玉川温泉のことはかねてから知りたいと思っていたので、大変に参考になりました。

それと最後にもう一つ。佐藤さんは酒豪であったそうで、本書の記述で飲酒により肝臓がんになったと断定的に書かれています。しかし、最新の知見では、飲酒は肝臓がんの原因とならないとされています。飲酒により肝硬変になり、さらに肝臓がんになる、という道筋は間違っていないのですが、実際には飲酒からがんに進むには非常に時間がかかり、毎日浴びるほど飲んだとしても、肝臓がんになる前に寿命が来てしまうのだそうです。

現在では、肝臓がんの最大の原因はウイルス(B型肝炎、C型肝炎)であることが知られています。その次に肝臓がんの原因となるのは、意外なことに糖尿病です。

がんについての正しい知識を多くの人に知っていただきたいのでこのことを書きましたが、もちろん飲酒を勧めるわけではありません。佐藤さんは食道がんも患いましたが、こちらは飲酒が大きく関係しているはずです。飲酒は咽頭がんや食道がんの原因となるのです。また、肝臓がんを患った佐藤さんは、飲酒により肝機能が低下していたため、手術や抗癌剤といった治療をすることができませんでした。やはり飲酒には大きな代償が伴うようです。