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がんに効く生活

  • 著者
  • :ダヴィド・S.シュレベール
  • 監訳者
  • :渡邊昌
  • 訳者
  • :山本知子
  • 出版社
  • :NHK出版
  • 発行年
  • :2009年

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山田店員からメッセージ

みなさん、こんにちは。今回ご紹介するのは、星野店主のオススメではありません。特別に、わたくし、山田店員のオススメをご紹介する機会を頂きました。

「がんに効く生活」の著者、シュレベール氏はフランス人の精神科医であり、研究者でした。ある分野の研究で世界的な権威であり、新進気鋭の若手として羨望の的と言えるほどの人だったのです。そのシュレベール氏がある日、研究のために自分の脳をMRIで撮影すると、なんと脳腫瘍が発見されます。彼はその分野が専門ではありませんが、研究のために脳の画像は見慣れていました。画像から、余命は6週間から6ヶ月程度だろうと考えたそうです。シュレベール氏が31歳の時です。

研究者としての輝かしい人生から、一瞬にして奈落の底に突き落とされたシュレベール氏。自宅のベッドに横たわって天井を眺めながら「自分にこんなことが起こるわけがない。絶対にありえない。」と悲観にくれました。そのとき、確信に満ちた「自分の声」を聞いたそうです「それが十分にありえるんだよ。でもそれほど大したことじゃないさ」。

彼は一瞬にして考えを変えます。「そうだ、これはありえることなんだ。人間としての経験のひとつだ。自分より先に同じことを経験した人はたくさんいる。自分もその仲間入りをしたにすぎない」。次の日から彼は生き残るためにあらゆる努力を惜しまず実行し、脳腫瘍の発見から20年も元気に過ごしました。

この本にはいろいろなことが書かれていますが、そのどれもががん患者だけでなく、多くの人の心に響きます。例えば、自分が医者から患者という立場になったことについて、「私は一瞬にして、今までは身近だと錯覚していただけで実際には何もわかっていなかった世界に転げ落ちた。病人の世界である」と書いています。

ある日、夕食会に出席したシュレベール氏は、自分の担当医である腫瘍科医に出くわしましたが、その医者は青ざめた顔で曖昧な言い訳をしながら立ち去ってしまったそうです。「その瞬間、ここは生きている人間の集まりであって、私はそこから排除された人間だということを痛感した。恐怖心が押し寄せてきた。みんなとは別のカテゴリー、病人だというだけで特別なカテゴリーに押し込められる恐怖。まるで透明人間になったような恐怖。死ぬ前から存在しなくなる恐怖」。

このような恐怖を克服出来た理由の一例として、ジョーのエピソードが紹介されます。ジョーもまた脳腫瘍の患者ですが、死の間際、シュレベール氏にこう言います「ぼくの命を救ってくれたあなたに神の祝福がありますように」。そして、シェルベール氏は「死を目前にしている人でさえ、命を救われたと感じることができるのである。この教訓のお陰で、私自身も思い残すことなく死を迎えられるよう、やるべきことへの一歩を踏み出す自信が持てるようになった。彼もまた、わたしの命を救ってくれたのだ」と書いています。ジョーがどのような経緯でこれほど素晴らしい言葉を残せるようになったのかは、本書をぜひ読んでください。

ここまで紹介した内容は、実は本書の導入部分でしかありません。本書の内容の中心は、そのタイトルの通り、「がんに効く生活」です。シュレベール氏は自分の脳腫瘍を克服するため最新の医学、最先端医療を勉強するとともに、西洋医学では軽視されがちな心の問題、がんに効く食べ物、運動の重要性などについても勉強し、実践しました。そのノウハウのすべてが網羅された本書は、がん患者にとっての教科書といえるものです。