がん語らいの交差点 わたしのがんカフェ

星野史雄のパラメディカWeb書店

生きる。一八〇日目のあお空

  • 著者
  • :吉武輝子
  • 出版社
  • :海竜社
  • 発行年
  • :2006年

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星野店主の書評

著者は1931年生まれの文筆家。看護師でエッセイストの宮子あずささんの母上といえばご存じの方も多いだろう。「病気のデパート」と自負する吉武さんの病歴は「膠原病 →自然気胸 →肺気腫 →大腸がん →白血病」と多彩だ。この本は主に“大腸がん”の病歴に詳しいが、次のように始まる。吉武さんはある日、外出先で突然の下痢(水便)を体験する。数日後には便秘が始まり、次第に便が細くなる。その体調の変化を聞いた宮子さんがエレベーターの中で元・外科部長に話したところ「それは典型的な大腸がんの症状だ」と言われたという。それからの、「病気はするけれども、病人にはならない」という吉武さんの、病に向き合う姿勢は見事なものだ。落ち込んでいる患者さんには、この本や、同じ吉武さんの「万病息災-老いても病んでも『元気』でいるコツ-」(講談社・2011年)、岩波ブックレット「病みながら老いる時代を生きる」(岩波書店・2008年)が、お勧めだ。

山田店員からメッセージ

皆さんこんにちは。当店で紹介する3冊目は大腸がんの闘病記です。大腸がんは女性の罹患数(がんになった人の数)が2番目に多く、死亡者数では女性の1位となっている非常に多いがんです。

この本の著者、吉武さんは72歳で大腸がんが見つかり、手術をして寛解に至りました。非常に幸運ですが、奇跡的というほどではありません。大腸がんは罹患数が多いので死亡者数も多くなっていますが、治療成績は決して悪くないのです。

少し勉強しただけの素人である僕が、大腸がんの解説をこれ以上続けるのはやめておきましょう。それよりこの本です。これは闘病記には違いありませんが、むしろ人生の指南書というべきかもしれません。重い病気になったらどうやってこの人生を生きていくか。いえ、病気に限らず、人生には苦難がつきもの。それでも元気をだして生きていく方法。それをこの本は教えてくれます。

実は僕は格言、名言のたぐいが大好きなのですが、この本にはそれがたくさん出てきます。「もし人間が不老不死だったら、地獄の業火にあぶられ続けても生きなきゃならない。いつかは死ぬから我慢のしどころに乗っかって、一見元気風にかっこつけていられるのよ」などというのは、思わずノートにメモしておきたくなる名言です。

もっとスパッと心に響く名言として「病気と寿命は別物」というのも出てきます。言われてみれば、病気でも長生きする人もいれば、健康だったのに突然、ということもあります。吉武さんは別の本で「病気になっても病人にはならない」とも書いていますが、どちらもすべてのがん患者に伝えたい言葉です。

伝えるといえば、僕からもがん患者やその家族に伝えたいことがあります。それは、吉武さんは決して特別な人ではないということ。僕は「がんのピアサポーター」というボランティア活動をしていて、たくさんのがん患者のお話を聞かせて頂いているのですが、がんという病を得ても、治療が辛くても、吉武さんと同じくらい、いえ、それ以上に、元気に明るく生きている人はたくさんいます。

吉武さんは明るく生きるための知恵をたくさんお持ちですし、それを分かりやすく本にまとめる作家としての実力も大変なものです。でも、がんと向き合って生きたその強さは決して吉武さんだけの専売特許ではない。むしろ誰もが持っている人間の本来の強さだと思います。