がん語らいの交差点 わたしのがんカフェ

星野史雄のパラメディカWeb書店

東大のがん治療医が癌になって

  • 著者
  • :加藤大基、中川恵一
  • 出版社
  • :ロハスメディア
  • 発行年
  • :2007年

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星野店主の書評

1971年生まれ、東大医学部を卒業し、同付属病院で放射線科医として働いていた加藤医師は2006年、34歳のときに自分の胸部レントゲン写真を見て、目を疑う。左胸部に1㎝強の丸い影が映っていたのだ。加藤医師は最初、原発性肺がん、つまりオリジナルの肺がんではなく、消化器系のがんや肉腫からの転移ではないかと疑う。転移性のがんということはステージⅣ、つまり末期がんを意味する。結局、転移ではないことを確認、「左肺下葉切除+同側肺門・縦隔リンパ節郭清」という根治手術を受け、五年以上経った今も放射線科医として活躍されている。本の前半三分の一が闘病記で、他は恩師・中川恵一医師の解説や、加藤医師の“勤務医生活”への想いなどが述べられている。闘病記部分を読むと、がんの手術で入院後に二週間も検査漬けになったりすることの意味がよく分かるはずだ。「原発」か「転移」かは、余命を決する重要なポイントなのだ。

山田店員からメッセージ

皆さんこんにちは。

開店したばかりの当店では、まず主ながんの闘病記を1冊ずつ紹介していきます。前回の乳がんに続いて、今回は肺がんです。

がんを治療する医師ががんになり・・・・。まるでテレビドラマのような話ですね。筆者の加藤医師はがん保険のテレビCMにも出演され、そこでは闘病しながら医師の仕事を続ける様子が描かれていました。自転車で出勤するその姿を覚えている人も多いかもしれません。

さて、この本は医師が書いたということでなんだか難しそうな印象があります。しかし、読んでびっくり。とても読みやすく、しかもがん患者が共感しやすい内容です。僕もがん患者として、「あるある」、「そうそう」と呟きながらつい一晩中読みふけってしまいました。この本の魅力は、加藤医師がまったく格好をつけずに本音を書いていることでしょう。検査の前に飲む薬剤について「あまりの不味さに耐えられなくなり、途中で300ccほど一気飲みした。すると、コントでも真似できないような見事な初速で、噴水のように吐き出してしまった」などという描写は、仮にも先生と呼ばれる医師としては書きたくなかったのではないでしょうか。しかし、がん患者として書く以上、包み隠さずに書くのだ、という真摯さが感じられます。

また手術前にゴルフに行った時に「ダフった時などは、この衝撃で癌が飛び散って転移するのではないか?などと、自分が医師として患者から問われれば、そんなことある訳ないですよ、と言下に言い切るようなことにすら不安になったりした」と書いてあるのには、笑ってしまうと同時に感動もしました。僕も治療中は色々とくだらない心配をしたものですが、知識のある医師ですらこんな心配をしてしまうということに、最大級の共感と安心感を感じたのです。

本書はこのように闘病記として読みやすいだけでなく、がん治療について勉強する非常に良い教材にもなっています。肺がん患者に限らず、すべてのがん患者にお勧めできる本です。