がん語らいの交差点 わたしのがんカフェ

星野史雄のパラメディカWeb書店

乳ガンなんかに敗けられない

  • 著者
  • :千葉敦子
  • 出版社
  • :文春文庫
  • 発行年
  • :1987年(単行本・1981年)

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星野店主の書評

作家の篠田節子さんは、公務員をしていた二十歳代後半に新聞で千葉敦子さんのコラムを読んだことがあるという。篠田さんの読後の第一印象は「嫌な女だ」というものだった。千葉さんが癌であることを告知され、余命一年と告げられたことを書いたところ、ある主婦から「一緒にそばにいて、泣いてあげたい」と手紙が届いた。しかし千葉さんは、「自分に残された時間はわずかで、一緒に泣いてもらうような暇はない」と返事をする。確かに、きつい表現だ。しかし「嫌な女」の書いたものほど気になると、仕事をさぼって図書室に籠って千葉さんのエッセイを読み進めた篠田さんは、専業作家への道を進めと「背中を押された気がした」という。六冊ほどある千葉敦子さんの闘病記は、今も迷える女性たちに「自立せよ」と強いメッセージを送り続けている。

山田店員からメッセージ

皆さんこんにちは。店員の山田です。当店の最初のお勧めは『乳ガンなんかに敗けられない』です。フリージャーナリストである千葉敦子さんが乳がんにかかり、手術をして寛解するまでの記録。そう、これはまさに記録、ドキュメンタリーです。ジャーナリストとして自分の状況を淡々と記録し、世に出した千葉さんの強さには敬服します。千葉さんはいったん寛解したものの、再発により亡くなられました。その直前には雑誌に「『死への準備』日記」という連載をしていたというのだから恐れ入ります。

実は僕も自分の治療経過をブログに記録・公開しているのですが、千葉さんほど自分をさらけ出すことはとてもできません。それでも一つだけ白状しますと、自分が手術をする前日、病院で泣きながら妻に電話をしました。そんな僕ですから、この闘病記を読むと千葉さんはスーパーマンかロボコップかという感じ。自分には縁遠い絵空事の世界ではないのかという気すらしてきます。でも、これは間違いなく事実の記録。こんなにもがんと向き合い、闘った人がいたという事実が、がん患者に勇気を与えてくれます。

ご注意ください

闘病記に登場する治療法は最新のものではないことは当店の「闘病記を読む7カ条」にも書いてありますが、本書は執筆されたのが30年以上前と古いため、治療法だけでなく様々な点に注意が必要です。例えば、切り取ったリンパ節に転移があったかどうかを病院が教えてくれないといった記述がありますが、現在ではこのようなことはありません。

また、千葉さんは家族や血縁にがん患者が多いことから、自分もがんになる可能性が高いと考えていたようです。当時としては当然の考えですが、現在ではこうした「がん全般をひっくるめてのがん家系」というものは存在しないことがわかっていて、すべてのがんのうち、90%は遺伝と無関係とされています。乳がんには遺伝性のものがありますが、家族血縁にがんが多いから遺伝性と決めつけることはできません。