日本の検査との違いに困惑でも納得の医療で

 〜イギリスで乳がん治療を受けたAさん〜

Aさんと私は、Aさんが乳がんを発症する5年くらい前にイギリスで知り合いました。Aさんは、50代前半のとっても笑顔の素敵な明るい方です。

Aさんが乳がんを疑ってイギリスで初めてファミリードクターに行ったのが2018年の年末。私はAさんの治療が少し落ち着いてから、はじめて、乳がんだったことを知りました。それ以降、特に何もお助けは出来ていませんが、陰ながら応援を続けさせてもらっています。そして、更に治療がひと段落した2020年3月に取材を引き受けていただきました。

Aさんは、リンパ節に4つ以上転移していたステージ3、HER2陽性。抗がん剤投与後、2019年4つのリンパ節除去に全摘再建手術を受けてから、約7ヶ月が経過。術後のセンチネルリンパ節生検も異常なしで、放射線治療は必要なしで、現在は再発防止の分子標的薬の点滴治療が終了したそうです。

乳がん治療に無知な私にとっても丁寧に説明して頂きました。取材の内容をQ&A方式にまとめせもらいました。

ピカデリーのエロス像。本来は大道芸があったり、観光客で埋まっている場所。閑散としていました。
ソーホーの目抜き通り。あまりに静かで驚きました

Q.2018年の12月に日本で一時帰国なさった際にリンパ節にがんがある事がわかったそうですが、日本ではなくイギリスでがん治療を選択した理由は?

A.生活の拠点がイギリスなので、イギリスで治療をする事を選択しました。術後の生活や身の回りのことを考えると生活の近くというのが選択肢になりました。毎年、1度は帰国していますが、このコロナの影響で帰国することが難しくなるとは思わなかったのですが、イギリスでの治療を選択してよかったと思っています。

Q.日本での診断結果(画像と病理検査のスライド)を含め専門病院に渡した際、使える情報がないと言われたそうですが、日本の検査や診断内容に問題があったからですか?

ロイヤルマーズデン

A.ファミリードクターから、専門病院を紹介され、その病院の予約時に、日本の病理判断書を正式な通訳会社を通して英訳したものがないと受け付けないと言われ、クリスマス時期に苦労して会社を探し、230ポンド(約35,000円)も出して訳し提出すると、意味不明だと言われました。

スライドにはがん細胞は写っていたはずです。多分、日本の先生がマンモグラフィーやエコーの画像を焼いてくれたCDは、デンスブレスト(※)なので不鮮明だったのだと思います。日本でやったのと同じ検査は無駄だしお金もかかるので、検査したくないと言うのはわかる(?)のですが、日本でマンモとエコー、生検しかしていなくて原発もわかっていないと言っているのに聞き入れてくれませんでした。

(※) デンスブレスト(高濃度乳腺(デンスブレスト)は乳腺が多い乳房のことで、マンモグラフィで撮影した際に全体的に白い塊のように写し出され、病変の発見が難しくなります。日本人には多いタイプ。
(?) イギリスは医療費が無料なので、本人の希望にかかわらず費用のかさむ検査などは敬遠しがちと言われます。

グリーンパーク


Q.その後はどの様な経緯でイギリスで検査、治療が進んだのですか?

A.専門病院と上記のやり取りをしていた為、専門医との予約が進められませんでした。12月13日にファミリードクターに行って、1月21日にやっと専門病院の受診でした。それから一連の検査を始めました。専門病院で最初に診察してもらうまでのやり取りに、7週間もかかりました。すでにリンパ節に転移した状態で見つかっていたのに先が見えなくて気が気じゃなかったです。日本で病気が見つかってイギリスで治療を開始するのはこんなに大変なんだなと思いました。

(※)イギリスのマクミラン財団が推奨したがん患者への9つのアウトカム。
1 私は早期発見、早期診断を受けることができる
2 私は自分の病気を理解し、自分にとって一番よい治療の選択ができる
3 私はベストな治療とケアを受けて、ベストな人生を送ることができる
4 自分の家族や友人もサポートが受けられる
5 私は人としての尊厳を重視した治療が受けられる
6 自分で出来ることは自分で出来て(能力を奪われない)、出来ないことは助けを受けられる
7 私は人生を楽しめる
8 私は地域の一員として、誰か困っている人を助け、地域に貢献できる
9 私は最高の最期を送ることができる

優先カード、化学療法中と明示されています。

Q.日本とイギリスの治療方法で違いはあると思いますか?

A.いろいろ調べてみましたが、ほぼ同じだと思います。ただ、イギリスで、がん治療をされている日本人にとっては抗がん剤の投薬量はちょっと強い(多い)と言っている方もいるそうです。幸い私の病院は4種類の吐き気止めの薬を処方して頂いて、乗り切る事ができました。

Q.イギリスの病院のほとんどが公立病院(※)なので一括した治療方針があるはずですが、病院によって違いがあると思いますか?

A.はい、そう思います。私は幸いにもイギリスで一番と言われるがん専門のR病院に通える圏内に住んでいるので、R病院で治療を受ける事が可能でした。住む地域によっては、総合病院の専門科で診てもらったりするので、地域差はあると思います。*R病院はイギリスで最先端の研究や治療を行っている病院で、国内の最先端の設備や 優秀な専門医師が勤務されています。公立病院なので、R病院で治療を受けられるのは、R病院の近辺の住人となります。自費での治療なら可能なので、遠方から治療にくる人もいます。(※)イギリスの公立病院比率75%、日本は20%。

奥に写ってるオレンジのバリアは、公園の向き合い型のテーブルベンチ。ロックダウン中のため使用出来なくなっています。

Q. イギリスで治療して良かった事は?

A.入院日数が少ない事です。自宅療養中もホットライン対応がとても親切でよくしてもらいました。抗がん剤で調子を崩しているなど、細かいことについても24時間の対応をしてくれ
ます。

さらに、肺炎を起こして、最寄りの総合病院に駆け付けた時などでも、緊急病棟で優先カードを持っているので、待つことなく診てもらう事ができてとっても良かったです。

そして、最大の長所は、やはり治療費がゼロと言う事です。タダだから信頼できないわけではありません。時間かかりましたが検査も治療も納得してすることが出来ました。

イギリスでは、エコーの際に何度か「lumpy(ランピー、塊だらけ、塊が多い)」との指摘を受けました。術前抗がん剤に入る前にがんのある場所にクリップでマーキングをしたのですが、密度が濃いせいで、技師がなかなか場所を確定できない様でした。エコーをかけながら場所を特定してクリップを挿入するのですが、リンパ節の方はすんなりクリップをかけたものの、胸の方ははっきり見えないので、何度もMRIの画像を確認しがらやってました。

「砂の中を探している様だ」と言ってました。R病院で治療を受ける事ができて、とても良かったです。日本ではセカンドオピニオン、サードオピニオンと右往左往される方がいらっしゃいますが、その必要がありません。最高の先生達、設備が整っています。全信頼を寄せました。

治療後の検診は、本当は1年に1度のマンモだけだと言われていました。先生にデンスブレストなのでマンモだけだと心配だと言い、その時はチームで見るから大丈夫だと言われました。

全ての患者に対し、チーム体制で当たるのがこの病院の良い所の一つです。結局、1年後検診の時にはエコーも加わっていました。やっぱり、lumpyねーと言われました。今回クリアできてホッとしています。1度乳がんになると、同時だったり、時間を経てもう片側もなる可能性が多いですから。


現在、Aさんは手足や関節の痛みの副作用があるそうですが、仕事に復帰し頑張っているそうです。今後も検査受診が続くそうですが、順調な回復を応援させていただきます。

奥の建物はホテルなのですが、ワクチンセンターになってます。小さいですが、ワクチンセンターの黄色い道路標識が写ってます。